「・・・んだと、貴様!もう一回言ってみろ!」
「なぁに、耳まで遠いの?しょうがないからもう一回言ってあ・げ・る!キーキーうるさいだけの実力の伴わない弱っちい能無し馬鹿はまじウザくて消えろっつってんの!」

「増えてる・・・」
「うっさい!ザラは黙ってろ!」
「え・・・なんで名前――・・・」

「言わせておけば貴様〜〜!この俺が能無しで弱っちいだと!?」
「そーよ!付け加えるならマザコンね!このマザコン!おかっぱ!はげ!白髪!老化始まってんなら老人ホームに帰れ!」
「〜〜〜ッ!――黙って聞いてれば・・・」

「黙ってないぜ、イザーク」

「うるさい!大体お前は誰だ!ここは部外者立ち入り禁止だと・・・」
「アンタが知らないだけでしょ!部外者がここにいるか、この能無し!」
「能なッ――・・・フンッ!そうか、そうか。お前も軍人か。ならば遠慮はいらん!勝負だ!!二度とそんな口が聞けないようにしてやる!」

「勝負だァ?あんたバカぁ?あたしが勝っちゃいますけどぉ?」
「減らず口が! ディアッカ!すぐに第一訓練場を確保しろ!」
「はぁ?なんで俺が・・・」
「いいからやれッ!」
「・・・はいはい」







右足の下には







クルーゼ隊に配属されて2ヶ月弱。幸いアカデミーで仲良くしたニコルが一緒だったこともあり、生活に慣れるのにそうたいした労力は必要なかった。
初陣は済ませたとはいえ、後ろでの補給が主で戦闘行為はなかった。ありがたいことなのかもしれないが、訓練ばかりで変わりばえがない、と思っていたのも事実。

ある日、シュミレーション訓練でもとしようかと(正確にはイザークが俺につっかかってきたのだが)訓練場に向かっていたときのこと。

この戦艦に、軍服を着ていない少女がいた。
きょろきょろと物珍しそうに辺りを見回しており、最初は誰かの家族が面会に来たのだと思った。

3日前ほどから港に停泊していたが、出発が未定で乗組員たちは外に出られなかったため、家族などの面会を特別にクルーゼ隊長が許していた。 そのため、戦艦にも関わらず、ここ3日が見知らぬ人間が艦にいるということが珍しくなかったからだ。
しかし、彼女がいたその場所はブリッジの付近。すなわち関係者以外立ち入り禁止区域だ。

ニコルが声をかけようとした瞬間、イザークがすっと前に出た。
後に俺は、イザークはどうしようもなくトラブルに好かれていることを実感することになる。



「オイッ!こんなところで何をしている!ここは部外者は立ち入り禁止だ!」
「・・・・・・」

彼女の片眉がぴく、と動いたのがわかった。

「即刻ここから出て行け!」
「イザーク・・・もっと優しく・・・相手は女の子なんですから」
「ここは戦艦で、今は戦争中なんだ!コイツが連合のスパイだったらどうする!」
「・・・ありえないだろ。面会の申請だって厳しいらしいぜ?」
「うるさい!」

彼女は最初に眉を動かした以外は、微動だにせず、何の反応もしなかった。こういうとき、普通は怯えたりしないだろうか。 俺はそんな彼女の様子に、面会人ではないのでは、と感じた。 軍の関係者かもしれない、そう思ってイザークを止めようとしたのだが。

「おい、イザ――・・・」
「おいお前!早く出て行けと言ってるんだ!聞こえないのか!?」

イザークはどうして人の話を聞かないんだろう。
俺はため息をこぼす。

「怖がってるんですよ、イザークが大声出すから」
「うるさい!お前も早く出て――・・・」

パシン!

イザークが、彼女の腕を掴もうとした瞬間、動かなかった彼女が動いた。 イザークの腕を叩き落としたのだ。

「なッ、・・・」
「アンタうるさい。人が黙って聞いてりゃキィキィキィキィ・・・猿なら野生へ帰れ」

俺達は唖然とした。同胞の中でもかなり可愛い部類に入るであろう、この少女の口から発せられた言葉だとは目の前にいても、 信じがたかった。そんな中、一番に我に返ったのは、言い返されたイザーク本人だった。

「・・・んだと、貴様!もう一回言ってみろ!」


こうして冒頭のやりとり戻るのである。






移動中それはそれはひどいものだった。 彼女はとことんイザークの存在を無視してニコルと朗らかに喋っているし、 イザークはそれが気に入らないらしく、彼女にとことん突っかかっていくが、すべて無視されていた。 それにより、イザークはますます熱くなっていくし、ストッパーのディアッカは訓練場の許可を取りに行っていたし。

ほんとに散々だった。
そこへラスティが「おもしろそう」の一言で加わり、ディアッカが途中で追いついてきて、 赤5人+αは当然のごとく注目をあびた。
皆暇をしていたのか、見学希望がぞろぞろとついてきて、それはまるで大名行列のようだった。

俺は帰りたい、と切実に思った。


第一訓練場に到着すると、イザークは待ちくたびれたように準備を始めた。

「じゃあ、相手が降伏した時点で試合終了。武器は練習用ナイフ、 あまりに長く続いたら俺とニコル、ラスティの3人で判定、ってことでオーケー?」

「あれ、なんでザラが入ってないの?」
「アスランはイザークの宿敵だから」
「黙れディアッカ!判定なんかいらん!こんな女、瞬殺してくれるわッ!」
「へーぇ?宿敵、ねぇ・・・?」

片方の口もとだけが上がる。

「はいはい、しつもーん!」
「何ですか?」
「なんでこんなギャラリーがいるわけ?」

「それは人の多いところで騒ぎをおこし、勝負するっていうことになったからですね」
苦笑いを浮かべながらニコルが答えた。

「まじうざい。赤以外出てけ」

「ハハーン、貴様、今になって怖気づいたか!それでも勝負は勝負だか・・・」

「さっさと出て行かせろディアッカ!」
「俺かよ!?」
「いや、さっきのおかっぱ口調を言ってみたかっただけ」

「ッ!貴様人を馬鹿にするのもいい加減にッ――・・・」

「お前マジおもしろいな」
「人をお前呼ばわりするな死ねこのエロスマン!」
「・・・はは、ディアッカエロスマ〜ン!」
「・・・・・・」
「そうは言っても、さすがにこれだけの人数は無理ですよ・・・」

ちっ、と舌打ちをすると彼女は声を張り上げた。
「おいコラ!」

ざわざわと騒がしかった練習場がシン、と静まり返った。

「殺されたいなら残ってろ」

彼女の殺気が辺りを覆い、多くのギャラリーがたじろぐ。 張り上げた最初の声より断然小さかったにもかかわらず、その声は恐ろしいほどよく響いた。 殺気を直接向けられたことのない、オペレーターなどの中には一瞬にしてガタガタと震え始めた者もいたくらいだ。 ニコルがはっ、と息を吐いたのが聞こえた。一番先に我に返ったのだ。

「しょうがないですね・・・すみません、皆さん退出していただけないでしょうか」

そのニコルの呼びかけで、皆我に帰り、静まり返っていたその場が一瞬にしてざわついた。 「貴様ァ!俺を無視して話をすすめるな!」









ギャラリー全員が出て、あれほど騒がしかった室内が再びシン、と静まりかえっている。
彼女とイザークが向かい合い、それぞれ準備体操をしていたとき、彼女が何かに気付いたようにハッとした。


「あ、」
「なんだ」
「思い出した!あんた、万年2位くんだ」
「ッ!なんだとッ――・・・」
「あれ、違った?アカデミーでザラに及ばず万年2位」
「誰がッ!」
「私こう見えて強いからさ、あんた倒すのに1分もかかんないよ」
「・・・んだと?」

彼女はニヤリ、と笑った。容姿は可憐なのに中身はひどい、毒だ。

「私はァ、利き足は左なんですけどォ」
「何が言いたい」
「あんたなんか、右足一本で十分」
「〜〜〜〜ッ!」
「腕組みしててあげる。あたしに片手使わせたら、あんたの勝ちね」
「人をバカにするのもいい加減にッ――」
「試合前に精神的揺さぶりをかけるのをやめましょうね」

ニコルの冷静な注意がなければイザークは今にも突っかかっていきそうな勢いだった。

「はァ〜い」

「もう準備はいいですか?」

「いいッ!さっさとはじめろッ!」
「オッケー」

「じゃあいきますよ?構えて・・・・・――はじめッ!」















ヒュッと目の前のイザークの姿が消えた、ように一般人には見えるだろう。
低くして突進している基本姿勢は良し。
良くも悪くもマニュアル通りだ。さすがお坊ちゃま。
パンチもなかなか。まぁ避けとく。痛いのは嫌だし。
それも予想していたのか、突き出した腕とは反対の手からナイフが飛んでくる。

(少しは応用もきく、と)

素材は悪くない、ただ一つ一つのワザが大ぶりであるところに、少々驕りが見え隠れする。

(要するに、まだまだというところか)






「なんだよ、あの女。デカイ口叩いたわりに、避けてばっか。たいしたことねーんじゃねーの?」
「でも、彼女、余裕って感じじゃないですか?実際避けてる間も腕組みはしたままですし。 あのままだとバランス崩しません?普通は・・・アスランはどう思います?」
「・・・くる」
「え?」


アスランがそう言うやいなや、ガッ、という音がして、ニコルは慌てて試合の方に視線を戻す。

彼女が右足でイザークを蹴り飛ばした、というよりはらった、といった感じだった。
右から左へ振り払った足が、またそのまま左から右へ。
タメが限りなく少ない。いや、なきに等しい。 イザークはすぐさま体勢を立て直そうとしたが、左からの攻撃の方が速い。
ギリギリで避けたものの、彼女はそれを予想していたのだろう。
彼女の右足がヒュッ、と音をたてて消えたかと思うと、
ドゴッ、と大きな音を立てて上から、イザークを踏みつけていた。
綺麗に決まった踵落とし、そして彼女のナイフはイザークの首筋に。
アスランが声を発してから約1秒間の出来事だった。





「勝負あり、ね」
「・・・・・・」

誰もが呆気に取られて声が出ない状態で、彼女の声はよく響いた。

「あんたさ、まだまだだけど、筋はいいから頑張んな」
「・・・・・・」

拳を握り締め、歯を食いしばったイザークが無言で立ち上がったとき、シュンと音を立ててドアが開いた。


嬢!探しましたよ!こんな・・・・あれ?全員おそろい?」
「ちょっとアイマン!遅いんじゃないの?!このあたしを待たせて!フザけんじゃないわよ!」
「あぁ、すみませんってば。でも、嬢がふらふら・・・」
「なによ!あたしのせいにする気?!」

「あの、ミゲル先輩・・・この方は・・・」
「あれ、自己紹介とか・・・」
「してないわよ」
「じゃあ何してたんですか」
「ケンカを強制的に買わされたっていうかー?買っちゃったっていうかー?」
「暇だからってケンカを買う奴が一体どこに・・・」
「ここ」
「・・・俺が隊長に怒られるんで控えてくださいよ・・・」
「あんたが黙ってればすむことでしょ」
「あ・・・あの」

「あぁ、この方は・・・」
「ストップ。自己紹介くらい自分でできるわよ!えーと、ハジメマシテ?ZAFT特殊独立機動部隊、通称カラス隊所属・隊員ナンバー03 ・K・。クルーゼ隊長たっての希望よりわざわざ!新人である赤5人の教育係として配属されました」






「・・・――よろしく」

ニヤリと笑ったその顔は、後にイザークに「焼きついて離れない」と言わしめる笑みだった。









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