嬢・・・ほんっと、頼みますから、もうこんな揉め事は起こさないでください」
「すんまそーん」
「・・・・・・」
「あ、今いらっとした?いらっとしたデショ?」
「・・・・嬢」

咎めるようにその名前を呼んでみても、それすらも彼女にとっては“おもしろい”のだろう。
くすくすと笑うその姿は、外見は可憐な天使のようだが、中身は毒々しい悪魔のようだ。
そんな悪魔のような性格をしていたって憎めないのだから余計にタチが悪いと、ミゲルは思う。

「大丈夫だって。相手はあの智将ラウ・ル・クルーゼよ?遅かれ早かれ、あぁなることくらい予想済みであたしを呼んだんだから」
「・・・・・・だったらいいんですけど」

まぁこんなに早いとは思ってないだろうけど。
は心の中で付け加えた。







右足の下には








「クルーゼ隊長、ミゲル・アイマンです!お連れしました」
「入れ」

ドアのロックが外れ、シュンと音を立てて開いた。

「「失礼します」」

「ZAFT特殊独立機動部隊、隊員ナンバー003。・K・であります!」

そう敬礼をしたの絵は、すごく不自然だった。 軍服を着ていない、可憐な少女の敬礼。 絵としては不自然なのに、動作からは慣れを感じさせるアンバランスさ。

「わざわざ前線よりご苦労だった。ミゲルも、もう下がっていい」

「はっ!では失礼します!」



再びシュン、ドアが開いてミゲルが出て行くと、クルーゼはロックをかけて言った。
「いつも通りでいい・・・

そう言いながら仮面を外し、仮面の下の素顔のクルーゼの微笑にもにっこり笑った。
その笑みは、外見どおりの天使の微笑。

「お久しぶりです、ラウにいさま」
「あぁ・・・元気にしていたか?」
「もちろん!ねえさまも、相変わらずです」
「・・・そうか。とは、ついさっきまで回線が繋がっていたのだがね」
「えぇ!?」
「少しばかり、来るのが遅かったな」

チッ、と聞こえた舌打ちは聞かなかったことにしておこう、とクルーゼは笑った。

「カラス隊の噂はここまで届いている。先の戦闘では随分と暴れたそうじゃないか。  が心配していた。あまり、あれの気を病ませるようなことはするなよ」
「・・・反省してるから、来たの。でなきゃ誰が新人の指導係になんか」
「わかっているさ、それくらい。私も、も」

クルーゼが浮かべた笑みも、が浮かべた笑みも。
そのどちらもが、甘い、微笑みだった。

「ラウにいさま、仕事の話は後にして、お茶にしよ?」
「・・・仕方のない妹を持つ兄は大変だな」

その言葉とは裏腹に、表情も纏う空気も甘く、柔らかいものだった。















クルーゼとはお茶を飲みつつ、近況について語りあった。
その図は、どこからどうみても、仲のいい兄妹。



と出会ったのは、が地球での任務から帰ってきた、あの日。 人工の空が、どんよりと曇っていた、珍しい日のことだった。 地球から帰ってきたはいつも以上に落ち着きがなかったが、しばらく様子を見るという口実の下、まあ平たく言えば放っておいたのだが。

帰って来て荷物の整理もせずに家の中を歩き回り、最後に、本を読む私の周囲を2,3周した後、意を決したように言ったのだ。
家族が増えてもいいか、と。

が手を繋いで連れてきたは不貞腐れたようなむくれた顔をしていた。
あとで聞くと緊張というものをしていたらしいのだが(そんな神経がお前にあったのかと思わず言ってしまった)、そのときは愛想のない子どもだと普通に思ったものだ。

その印象は慣れてくるにしたがって変化し、はよく泣きよく笑う、感情をまっすぐに表現する子どもだった。 も私もどちらかと言えば、用がなければ喋らない方なので、が来たことで家の空気が随分変わったのはまぎれもない事実だった。

そしてはその頃から、ひどく大人びていた。
ふと見せる表情、意見、闇が、それを物語っていた。

はアンバランスだ。不安定ではなく、不均一というか。私やとは根本的に違う“何か”を感じさせるモノを持っていた。

子どものように自分を主張するくせに、世界を冷静に諦観していた。

己の運命を呪うことなく、嘆くことなく、運命さえ己の中に呑み込んでいる。

その性格は、あけっぴろげだが、底抜けに明るいわけではない。沼のような底がわからぬ闇を持っている、むしろ闇そのもののような印象。 の底見えぬあの“何か”に触れるたびに、私は愚かにも、神を信じたくなるのだ。

ナチュラルでありながらコーディネーターにも圧倒的に優る は真実神の子どもだと。コーディネーターであるもクローンである私も、所詮人工のモノで、真の“天然”には勝てないのだ、と思ってしまうのだ。

それでも、が可愛い妹であることが変わるわけではない。
も、私の駒に加えたことはなかった。それが愛情なのだと、認めたのはつい最近のこと。
理屈ではなく、いとおしく思う。それでいい、ただ在ればいい、と。


の止まらぬお喋りに軽く相槌を打ちつつ、過去を思い出していたクルーゼの瞳はひどく、甘く優しい、光に包まれていた。



、そろそろ仕事をせねば、怠慢で怒られてしまう」
「にいさまが?一体誰に?」
に」
「ねぇさま?そんな――・・・ありえそうで怖い」
「・・・だろう?さて、仕事の話をしようか、。データは見ただろうが、今回指導する新人は・・・・・・?」
「ハァイ?」

が目を逸らしたからか、幼少の頃から育ててきたからか、それともに隠す気がなかったからか。おそらくそのすべてだろう。 幼い頃から呆れることをやってのける少女に、昔からクルーゼはため息をつくしかできないのだ。

「あのですね、ちょーっとした好奇心で、出歩いちゃいまして」

えへ、と誤魔化して笑う顔は身内の贔屓目をなしにしても可愛らしいとクルーゼは思う。

「で?」

何があったか大方想像できるくせに、わざわざ自ら白状させるのは、意地が悪いと自分でも思う。

「むー。そこで、データにあった赤をみつけて、ケンカを売られたので、買って。  まぁ遅かれ早かれこうなるだろうなーって思ったから、いっか、って思って。それに暇だったし」

はぁーと、それは長いため息を、見せ付けるように、ついてやる。

「暇だった、というのは頂けないな・・・待機していろ、と言ったはずだが。それに、反省してここへ来たのではなかったのかね?」
「・・・ゴメンナサイ。今度から気を付けるから、ねぇさまには黙ってて下サイ」
「もうしない、と言わないところがお前らしいというか、ずる賢いというか」

フッと笑うクルーゼに告げ口の意思がない事を悟った は言った。

にいさまに似たのよ、と。




漂う空気は、何より優しく、何より愛しく、光に溢れたものだった。




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あとがき