鍵を架ける


「・・・コレが?」

「そう。俺の」

「へーぇ?」


品定めするような、舐められているような、私を這いずり回るような、感覚。 人の視線をそう感じたのは初めてだった。向けられる視線に敏感になっていただけなのだけれど、 そのときの私には、目の前に佇む男の人が、己に対してひどく悪意を持っているのように感じたのだった。


「・・・・・・ッ!」


それに耐え切れず、思わずシャルナークの服の裾を引っ張って、後ろに隠れた。


「ちょっと!フィンクス!いやらしい目してんじゃないよ!」

「んだとマチ!誰がいやらしい目で・・・」

「あんただよ、アンタ!が怯えてんじゃないか!」

「チッ!知るか!・・・だからガキは嫌いなんだよ」


フィンクスが吐き捨てるように言ってその場を離れた後、フェイタンが口を開いた。


「・・・で?」

「ん?フェイが積極的なんて珍しい・・・なに?」

「ソイツをどうする気ね?蜘蛛に入れる気か?」

「んーわかんない。それは団長が決めることだから。でも俺は別に推薦しようと思って連れてきたわけじゃないよ」

「・・・ハ?意味わからないね。蜘蛛に入れる気ないのに連れてきた、ソレどういうつもりか」

「挨拶と紹介?・・・ほら

「・・・です。よ、よろしくお願いします・・・?」

「フザけてるか・・・?」

「・・・ッ!」


殺気を向けられて、反射的に練をする。
それに対して周囲は驚いたのだが、それを気にする余裕はにはなかった。

何かを認識する前に躰が後ろへ飛ぶと、今の今まで自分がいたところへフェイタンが剣を突き刺していた。 ヒューと誰かが口笛を吹いたのが聞こえたが、それが誰なのか考える暇などなく、 フェイタンの姿が消えた、と思う前に躰が右へ傾く。左側からシュっと風を切る音が聞こえた。 次は避けられない、そう思った瞬間に、暖かいものに包まれた。 それがマチの腕の中だと気付くのには少々時間がかかった。


「これ以上は許さないよ」

「離すね、シャル」


シャルナークがフェイタンの腕を押さえていた。しばらく二人の睨み合いが続いたが、 フェイタンがちっと舌打ちをすると、 シャルナークはその腕を放し、フェイタンは剣をしまった。


「・・・ナマエ」

「え?」

「ナマエ、何ていうね」

「・・・え、あ、!」

「避けるとは思わなかたね」

「あ、ありがとう・・・?」

「フン!」


去っていくフェイタンの背中を、マチの腕の中から見つめていると声が上から降ってきた。


「大丈夫かい、

「・・・うん、ありがと。マチ」

「アンタ、フェイタンに気に入られたね」

「・・・どうやったらそう見えるの?」

「誰に聞いてもそう言うって」


マチはそう言うが、はどこが気に入られる要素なのか、さっぱりわからなかった。 いきなり切りかかられて、シャルナークとマチが助けてくれなければ、死んでいた。 それだけはわかった。それなのに、マチはフェイタンに気に入られたのだと言う。


「フェイタンは捻くれてるからわかりにくいけどさ、アレは褒めてんだよ」

「・・・そうなんだ」

「それよりアンタ、いつのまに念覚えたの?」

「あぁ・・・それは――・・・」

とマチってそんなに仲良かったっけ?」


シャルナークが近づいてきて、マチの腕から出されて抱き上げられる。 その顔はどこか不機嫌で、は修行の成果が出せなくて怒っているのだと思った。 本当は、フェイタン相手に避けれただけ褒められてもいいはずだとは思っていたのだが、 不機嫌なシャルナークはどこか怖いので、帰ったら苦手な体術をちょっとだけ頑張ろうと 己に言い聞かせた。


「会うのは2回目なんだけど・・・全然そんな感じしないな」

「・・・マチが優しいからだね」

「言ってろ」

ずっと前からの付き合いに思えて、そんな存在がいることがは純粋に嬉しくてマチを見て微笑った。そんなを見て、マチも微笑った。
お互いに微笑いあっていると、シャルナークがくい、との服を引っ張った。


「ほら、

「ん?」

「クロロに挨拶しにいくよ」

「あ。・・・じゃあマチ、また後で!」

「んー」


マチは、シャルナークに抱かれたまま、手を振り去っていくに手を振り返しながら思う。
少し蚊帳の外に置かれただけで露骨に機嫌の悪くなったシャルナーク。 彼の意外な一面に最初はパクノダと一緒になって哂っていたが、果たしてそんな軽いものだろうか。 あの独占欲に、いつかが絞め殺されるような、喰い殺されてしまうような、そんな気がした。 自分から見ればは純粋にシャルナークを想っているように見えたから、カタストロフィは見たくない。
潰されてほしくないと思う。潰してほしくないと思う。

そこまで考えて、マチは考えるのをやめた。 考えれば考えるほど、それが現実となってしまいそうな気がしたから。 他人の色恋沙汰に首は突っ込むべきではないと思ったから。
たとえそれが、どんな結果になろうとも。

マチは、二人が消えていった廊下から目を離し、背を向けた。






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