鍵を架ける


その後、何度か違う実験を繰り返した。
シャルナークも、クロロも、もう何も言わず、ただ、がやることをじっと見ているだけだった。 が言ったように、剣はもう二度と男の手から具現化されることはなかったし、 それどころか纏や練もできなくなっていた。オーラが垂れ流されている、一般人になっていた。 今まで出来ていたはずの念が急にできなくなったことにより、男は恐慌状態に陥った。 身体中の穴という穴から体液を吹き出した、お世辞にも綺麗とは言えない狂った人間は、 先ほど、シャルナークにより気絶させられ、どこかへ連れて行かれた。


「気は済んだか」

「…ハイ」

「恐ろしい念能力だな。・・・ただ消すだけの能力かと思えば。念能力を喰らう、か」

「…・・・」

「欲しいな」

「だめです」


クロロの一言に笑って返すと、ニヤリと笑った。


「ちょっと待ってよ。念能力を消すって、つまりはどういうこと? 確かに今まで纏が出来てたはずの人間が一般人みたいにはなったけど、それは習得しなおせばすむことじゃないの」


先ほどの男は、多分そこらへんに棄てて来たのだろう。 連れてきたときの何十分の一かの時間で戻ってきたシャルナークはドアのところで立ち止まっていた。 戻ってきた瞬間にクロロの発言を聞いたのか、心底不思議そうな顔をしている。


「これは俺の推測だがな、シャル」

「うん」

「自転車や一輪車は一度乗り方を習得すれば忘れない、そうだろう?」

「うん」

「念も一緒なはずだ、違うか?」

「うん。コツさえつかめば、衰えはするけど忘れることはないと言われてる」

「そうであるはずの念・・・纏ができなくなる」

「・・・ということは、どういうこと?」


クロロが若干、呆れたような顔をしたので、シャルナークは少し機嫌を損ねたようだった。 それでも、文句一つ言わずにおとなしく質問をしたところから、お互いの付き合いの長さが窺えた。


は異世界から来たと言ったな。その世界では念は存在したか?」

「・・・ううん。私の知る限りでは、なかった、と、思う」

「つまり、だ。纏が出来なくなっている、イコール奴の中の念の存在が消えた、と推測できるんだよ。 念の知識はあるだろうし、使っていたときの記憶もあるだろう。 だが、がいた世界のように念の存在がないという世界もある。奴の身体だけその世界に行ったように、 奴は念を二度と習得できない。奴の身体の中には念という存在や概念がない、消えたからだ、と考えるのが妥当じゃないか?」

「・・・なるほど。それってやられたらアウトってことじゃん」

「だから言ったろう、恐ろしい、と。だからこそ欲しくもあるんだが」

「だめ、です」

そう言って笑うと、クロロも口の端をあげた。
同じ特質だったからか、それとも私が今まで勘違いしていただけのか。
クロロは思ったほど私のことを警戒していないように思えた。思ったより話しやすく、優しかった。 多分、必要以上に喋らないから、怖かったのかもしれない。


「シャル、お前すぐ帰る気か?」

「そのつもりで来たんだけど」

「・・・・・・・緑色の目をするな」

「うるさい」


心なしか不機嫌そうなシャルナークに、クロロがおかしそうに言ったことが私にはわからなかったけれど、 クロロがシャルナークをからかっているのだけは、なんとなく空気でわかった。


「しばらく滞在すればいい。系統別修行も、ここなら各系統最低一人はいるからな」

「・・・えー・・・はどうしたい?」


こうやって、私の意見を聞こうとしてくれる姿勢が、私をたまらなくさせる。


「・・・マチとパクとシズクといっぱいお喋りしたい、な」


正直にそう言うと、彼は困ったように微笑って私を抱き上げて、わかった、と呟いた。


そういえば、ホームに来てから彼に抱っこされることが多い気がする。
色々なものが転がっていて足元が危ういから、私がこけてしまうと思っているのだろうか。




私は、シャルナークと一緒にいられさえすれば、どこだっていいし、何をしてもいい。
その願いを知ってか知らずか、彼は必ず叶えてくれる。
その上での私のしたいことや、やりたいことを最大限に優先しようとしてくれるのだ。


こんな幸せを得て、いいのだろうか。


己がますます我侭に、貪欲になっていくのが目に見えてわかる。

彼といられることを、当たり前だと思ってしまう日が来るのではないかと、

それが何よりも怖ろしい。

その驕りが、思い上がりが、彼を失ってしまうことに繋がる気がするから。

それは、そうなったときに、彼を失ってしまうことがこわいから。

地から地獄へ落ちるよりも、天から地獄へ堕ちる方がずっといたいはずだから。




彼の腕に抱かれて、彼の暖かさを知って、もう知らないときには戻れない。










緑の目;green eyed(嫉妬深いことのたとえ)


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