鍵を架ける
にぎやかな声が聞こえる。おもしろくない。 本当ならホームに留まらず、すぐに帰る予定だったのに。 誰にも見せないで、どこかに閉じ込めてしまいたいと、何度思ったことか。 彼女には自分だけがいればいいのだ。 そう思っているにもかかわらず、いまだホームに留まっているのは彼女が嬉しそうに、楽しそうに微笑うから。 自分だけのものにしたいという、この黒い気持ちを、彼女が知ることはない。 彼女は真っ白な微笑みでもって、すっかり蜘蛛に打ち解けてしまった。 自分がそうだったように、奴らも惹かれたのだろうか。 朝食を一緒に食べるなんて、ここではそんな習慣などなかったのに、 いつのまにやらホームにいるメンバーのほとんどが揃うようになった。 それぞれがそれぞれに彼女を気に入っていることは一目瞭然で、マチやパクノダなどは猫可愛がりで、 ノブナガは和食を作れる彼女に餌付けされたようだし、フェイは最初のあれから何かと彼女に突っ掛かる。 クロロは顔には出さないものの、ホームをもっと綺麗なところに移動しようかと悩んで場所を探しているのだ。 これが彼女の効果でなく何と言うのだろう。おもしろくない。 だからこそ、大人げないとわかっていながらも、彼女が起こしに来るまで起きないなんて、子供っぽいことをしているのだ。 彼女がわざわざ起こしに来るのは自分だけだと、知っていても、やはり確かめたいのだ。 体重の軽い足音が聞こえる。 消ししきれていないそれに、やっぱり体術が駄目だなぁと思いながら目を閉じると、ドアが開く音がする。 「…シャル?」 よく考えれば、一応賞金首をやっている人間が起きないはずがないのに、やはりどこか抜けているのか。 身じろぎさえしない自分を起きていないと思ったのだろう、起こそうとしたの体重でベッドが軋む。 その瞬間、彼女の手を掴み引き寄せた。何の抵抗も示さないに、再度鍛える必要性を確認した。 「・・・ッ!?」 「おはよう、」 にっこりわらって頬に口づけると、彼女は口を尖らせた。 「・・・まさか今日だけじゃなくて、いつも、起きてたり・・・?」 「ちゃんと修業してる?」 彼女の質問には答えず言いたいことを言う。 するとは少し、拗ねたようにわざと眉間にしわをよせた。 「マチとパクは甘いのかな?全然反応しなかったじゃん」 眉間のしわを突付いて、にやり、と笑う。 すると、は目を真ん丸にして、何度か瞬きをすると、心底不思議そうに言った。 「…シャルに警戒、とか抵抗とか、する必要なんてあるの…?」 「……」 彼女は何かと自分の期待を裏切るような、嬉しい言葉をくれる。 だからこそ、貪欲にもっと、と望むのだ。 「はここに住みたい?」 「?」 自分らしくなく、話に脈絡がないことは自覚していたけれど、正直限界だった。 「ここは賑やかだし、マチやパクもいるから話し相手には困らないだろうし、 クロロもクロロで、ミリィがここに住むんならもっと綺麗で広いところに引っ越そうかなって言ってるし…」 「シャルは…」 「え?」 「…シャルはどうする、の?」 「…はどうしたい?」 微笑みながらの黒髪を梳く。ズルいと思う。自分は何も言おうとしないくせに、相手に聞くことは。 相手の意思を尊重しているわけじゃない。ただ自分が望む答えを聞きたいだけ。 「私、は…シャルがいれば、どこでも、いい・・・」 ベッドに顔を埋めて見えないようにしても、真っ赤な耳をみれば、自然と笑みは零れる。 でもまだだ。まだ、足りない。満足しない。 「うん。はどうしたい…?」 己の右隣のの髪を左手で遊ぶ。時間はいくらでもある。 朝食が少し遅くなるくらいで、さすがに奴らでも寝室までは侵入しないだろうから、二人でいる時間が増えるだけ。 自分にとってこの上ない好都合。左手はやまない。 「…がいぃ・・・」 「んー?」 聞こえたのに、もう一度聞きたいからと言って聞こえないフリをする自分は、端からみればどれだけ滑稽なことだろう。 「…シャルとふたりがいい」 「うん、そっか」 突然、閉じ込めてしまったら、出たくなるだろうから 扉は開けておく。 飛べる鳥が、自らの羽根で、その籠の中に入るのを期待しているから 扉は開けたままにしておく。 飛べる鳥が、自らの意思で、飛ばずに己の下にいてほしいから。 鳥籠の鍵は、まだ、かけない。 |