鍵を架ける


「えぇ!?明日帰る!?」


マチの声が響いて、また、辺りは音を失う。


「・・・うん」


頷いたそれはひどく小さいものだったけれど、静けさの中で色づいた。


「それは、急ね。・・・どうして?」
「え?」
「あン男・・・!」
「え、ち、ちが・・・」
「何が違うの?」
「アイツが帰ろう、って言い出したんだろ!?」


どうだろう。彼はに、どうしたいのかと問うただけで、彼が言い出したわけじゃない。 むしろ、彼と共にいたい というの願いを、彼が叶えてくれようとしているだけだ。 ひどくイラついた様子で眉を顰めたマチと、口調は冷静だが微笑むその瞳が笑っていないパクノダが怖い。


「・・・うぅん、あたし かな」


の言葉に彼女達は純粋に驚いていたようだけど、どこに驚く要素があるのかわからない。 そもそも蜘蛛のホームへ来たのは、クロロに水見式を見てもらいに来た訳で。 むしろ長く滞在しすぎたと言ってもいいくらいなのに。


「団長、に水見式みてもらえたし・・・いつまでもここにいるのは迷惑かな、って」
「迷惑なんて!」
「そうよ、。誰もそんなこと、思ってないわ」
「あ、ありがと・・・」
「あれ?もあたしと同じなんじゃなかったの?」


不意に紡がれたシズクの言葉を理解できずに、首を傾げた。


「同じ?」
「予備団員てこと」
「ぇ!?」
「・・・それいいわね」
「ナイス、シズク!そうだよ、!あんたも予備団員になりなよ!」
「ぇ、えぇ・・・!?」


予備団員ということは、団員に欠員が出来たときに補充されるということだろう。 欠員、ウボォーギンやパクノダの死のビジョンが頭に浮かぶ。シャルナークも死ぬと予言されたメンバーの中にいなかったか。 サァーと血液が下る音が現実に聞こえたような気がした。血の気がひく、とはこういうことなのか、と頭のどこかで思う。 ブンブンと首を振り、無理に何か言おうとしたとき、部屋の出入り口から声がした。


「だめだよ」


声のした方向をバッと見たのはだけだった。 以外の3人はとうに気配に気付いていたのか、驚く様子もなく。そこには、蜂蜜色の髪をなびかせる愛しい人。


は俺のものであって、蜘蛛に献上するために連れてきたわけじゃないんだから」
「モノじゃないだろ、は!」
「モノじゃなくても俺のだよ」
「なッ・・・!」
「・・・マチ」


シャルナークとマチのやり取りを止めることもできず、ただ見ていたと違って、パクノダは一言で止めてしまった。 すごいなぁ、と彼女を見遣ると、彼女はマチと何かアイコンタクトをしているようで、その仲の良さが羨ましいと純粋に思った。



「え?」
「クロロに明日帰る、って言ってきたから」
「あ、うん!」


それだけ言うと、シャルナークはスタスタと部屋から出て行ってしまった。 その背中が見えなくなるまで見つめているを、パクノダやマチが見ていたことに、視線を感じられないが気付けるはずもなく。 視線を部屋の出入り口のほうから元へ戻したときに、彼女たちがこちらを向いていることにやっと気付く。


「な、なに・・・?」
は、いいの?」
「え?」
「あの男にあんな言われ方して。自身のものだろ?」
「・・・あぁ!」


マチの言わんとしていることがわかって、の表情が緩む。


「いい の」


マチは不機嫌そうな顔をし、パクノダは先を促すような顔をし、シズクはちょっと興味あります、というように読んでいた本から顔をあげた。


「私は、予備団員にはなれないよ。そこまで強くない、し。何より欠員、って死んじゃう、ってことで・・・シャルが死ぬなんて思わない、けど、絶対なんてない、し・・・」


拙い言葉でどこまで伝えられるだろう。理解はされなくてもいいから、知っていてほしいと、伝えたいと、は思う。


「シャルが、いないのに、生きていくのは、無理、だから・・・。シャルが、あたしの、すべて」


だんだんと小さくなる声、それを何も言わず拾い上げてくれる彼女たちが、は好きだ。
その気持ちに嘘偽りは存在しない。 けれど、彼への想いは好きとか嫌いとか、そんなものを遥かに凌駕していて。 彼がこの世界のすべてであり、の世界そのものだった。


「・・・アレのどこがいいのか、さっぱりだけどね」
「蓼食う虫も好き好きってやつかしらね」




幸せすぎて、怖い。


ホッと息をついた私を安心させるかのように微笑む彼女たちを見て、そう思った。


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