鍵を架ける


「いよぉーし! んじゃ、今日は宴会だァ!」


ノブナガのその一言から始まった酒飲み大会には圧倒された。
多分、普段から何かと名目をつけてはやっているのだろう、とは思った。


「まァたホームに来いよォ、!おめェならいつでも大歓迎だからよォ!」
「うん、ノブナガありがと」

「今度会うときは、もと強くなてると期待してるネ」
「・・・あんまり期待しないでね、フェイタン」

「また遊ぼうね、
「もしろん!シズク、ケーキ食べに行く約束、忘れちゃった?」
「あー・・・、いこ。うん」

「シャルと喧嘩したら、いつでも来ていいんだからね?」
「パクは心配しすぎ。・・・ありがとう」

「また来いよ」
「うん。ありがと、フィンクス」

「次の仕事、シャルと一緒に来ればいい」
「・・・シャルが連れてきてくれたら、是非。あ、アドバイスありがとうございました」
「礼を言われるようなことはしていない」


お酒を呑むその合間に、一人ずつ、声をかけてきてくれるのが、は嬉しかった。 フランクリンは何も言わなかったけれど、の頭をすっぽり包んでしまうあの大きな手でポン、とされたときのフランクリンの瞳は優しい色をしていた。







夜の闇が辺りを支配しても、これからだとばかりに宴は盛り上がっていたとき。


「なんだヨ、宴会なら教えてくれればイイのに!」
「チャン!」


不意に現れた乱入者に驚いているのは、だけだった。


「お!オメェも来たか!んじゃ、呑み比べするぜーぃ!」
「もう既に酔っちゃってるフィンには、俺、余裕で勝つヨ?」
「うっせ!コラ」
「はは、待ってロ、クロロに挨拶してくるカラ」


突然現れた男は、に気付くと、細い目をさらに細めて、にこにこ笑いながら近づいてきた。


「君がシャルの子猫ちゃん?話は聞いてるヨ、初めまして!俺はチャン・リー、チャンって呼んでネ。蜘蛛で8番をもらってマス」
「・・・ぇ!?はッ、初めまして、です・・・」


どうしてだろう。態度は好意的なのに、背筋に電流が走ったような気がして、怖い。 悪意を向けられているわけでないのに。この人はきっと、突かれたくないところを、笑いながら突いてくる人だ。 とこが痛いのか、どうやったら相手に一番ダメージを与えられるか、見抜く力を持っている人だ。 は不思議とその確信を持った。


「チャン!いじめんな」
「おー怖イ。マチ、あんまりツンケンしてると、そのつり目がもーっと上がるヨ!」
「・・・ンだと?」
「クロロんとこ行ってきマース!」


急に話し掛けられておろおろしていると、マチに抱き締められ守られる。 少しお酒臭かったけれど、そのぬくもりは心地よいものだった。


「ったく!・・・アイツも悪い奴じゃないんだけどね、少し口が過ぎるっていうか。ドSだし、近づかないこと。わかった!?」
「・・・うん」
「あの男は!?を一人にして何やってんのさ!」


帰ることを告げてから、マチはシャルナークのことをアイツやあの男としか称しなくなってしまった。 パクノダはのせいじゃない、と言ってくれたけれど、蜘蛛の活動に害がないか心配じゃないと言えば嘘になる。 彼らの繋がりがそれくらいで揺らぐとも思えなかったけれど。


「あ・・・シャル、なんか電話かかってきて・・・重要なことみたいで、外行っちゃった」
「うわ、さいってー」
「そ、そんなことないよ?それまではずっと一緒にいてくれたし、仕事だし、ね?」


しどろもどろシャルナークのフォローをするけれど、あまり効果は期待できないようだった。


「オーイ、マチ!ちょっと来い!」


ウボォーギンからの指名にマチは躊躇うようにを見た。にっこり笑って行くように促すと、 マチは先ほどのチャン・リーという男が戻ってきていないことを確認してから、ウボォーギンの元へ行った。









「子猫ちゃん♪」
「ッ!?」


背後から聞こえた声にびっくりして振り向くと、そこにはチャン・リーがいた。


「一人?」
「・・・シャルが」
「あそ」


途中で遮るなら聞くな、とは思う。けれど、原作にはなかった存在。どんな人間なのか、正確にはわからない。 ここへきて初めて、は己が原作の知識を相当頼っていることに気付く。


「子猫ちゃんはサ・・・」
「子猫、じゃなくて、です」


仕返しとばかりに男の言葉を遮ってやると、驚いたように一瞬真顔になるが、再び貼り付けたような笑顔になる。 子猫、と呼ぶが、男の方が随分と猫のようだった。目が細くて、つかみ所が無くて、気位の高そうな猫。そんな印象を受けるのだ。


「シャルのねェ・・・いつまで持つかナ」
「え?」
「綺麗なオッドアイだよネ君。遊郭で働いてなかった?・・・いま懸賞金かけられてるヨ?」
「・・・」
「コレがサ、結構高額になってきてるんだよネェ・・・」


君はいつまで彼の元にいられるだろうね?


意味深な言葉を残し、チャンは笑いながらウボォーギンやノブナガのいる輪の方へ去った。
言葉だけ、言葉だけをの頭の中へ残して。




いつまでシャルナークの元にいられるのだろうか。

忘れていた。忘れてはならないことを忘れていた。

最初は、ちゃんとわかっていたのに。

高望みをしてはだめ、この瞬間だけかもしれないのだから、と。

なのに、シャルナークと倖せな日々を過ごしていく中で、

ホームに来てから、やさしかった日々を過ごしていく中で。

いつのまにか、忘れてしまっていた。



異物だということを。ここにいなくて、当然の人間なのだということを。



指先が冷たくなっていく。ぎゅ、と握り締めても震えが止まらない。






?」

いちばん愛しくて、いちばん傍にいて欲しくて、いちばん気付いてほしくなかった人。
握り締めた拳に手を添えられる。


「・・・シャル」
「どうかした?気持ち悪くなった?」


エメラルド色をした彼の瞳を見られない。今はあの男の言葉がの頭を占拠していた。


「・・・だ、大丈夫!ぁ・・・で、でも、もう寝て、いい?」
「・・・いいよ、いこっか」
「ひ、一人で大丈夫!シャルは、まだ飲んでていいよ」
「・・・?」
「おッ、おやすみなさい!」


半ば強引に会話を終わらせて、その場を離れた。




いつまでシャルナークと一緒にいられるんだろう、許されるんだろう。

いつか、この日々を失うときが来るのだろうか。

一緒にいる暖かさを、倖せを、感じたあとで。

それに耐えられるはず、あるわけないのに。




勝手に動く足は、いつも寝ている部屋の前を通り過ぎ、階段を上っていった。



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